この記事は次の記事の続きです.
これまでに命題について説明しました.数学的主張のことを命題というわけですが,いままで紹介してきた命題の例を見ればわかるように,その表現の幅はとても狭いです.ですから,もう少し柔軟性のある表現を探したいわけです.そのために「条件」というものを考えましょう.
条件とは
条件とは変数の入った文で,その変数に何かしらを代入することによって命題になる,すなわち真偽が定まるようなものを言います.
x は 4 の倍数である.
例1においてxに1を代入してみましょう.すると上の文章は「1 は 4 の倍数である」という偽の命題になります.一方xに16を代入すれば「16 は 4 の倍数である」という真の命題になります.
上では変数としてxという記号を使っていますが,何の文字でも問題ありません.
a は偶数である.
どの文字に関する条件かをきちんと述べる場合には変数xに関する条件,や変数aに関する条件,などという言い方をします.また,変数はいくつかあっても問題ありません.
x + y = 5 である.
xに関する条件をp(x)と書くことにします.p(a)と書けば変数はaであり,p(x,y)と書けばxとyの2変数に関する条件になります.
条件も命題と同じように否定や,条件をつなげて新しい条件を作ったりすることができます.
つぎの2つの条件を考える:
p(x):「x は 4 の倍数である」
q(x):「x は 3 より大きい」
p(x)の否定\neg p(x)は
「x は 4 の倍数ではない」
という条件である.
p(x)\wedge q(x)は
「「x は 4 の倍数である」かつ「x は 3 より大きい」」
という条件である.
p(x)\vee q(x)は
「「x は 4 の倍数である」または「x は 3 より大きい」」
という条件である.
p(x)\rightarrow q(x)は
「「x は 4 の倍数である」ならば「x は 3 より大きい」」
という条件である.
このように条件を組み合わせることにより,より複雑な条件を作ることができます.
条件から命題を作る
条件を考えるメリットを考えてみましょう.例えば次の3つの命題を考えてみます.
- 2は偶数である.
- 14は偶数である.
- 10000は偶数である.
これらはすべて真の命題です.見比べてみるとわかるのですが,これらの命題は数字が異なるだけで,数字以外の部分は同じ文となっています.次の条件p(x)を考えてみましょう:
「xは偶数である.」
この条件を考えれば上の3つの命題は,それぞれp(2),p(14),p(10000)と書くことができます.つまり,次のようにまとめることができます:
「x=2,4,10000のときp(x)」は真の命題である.
この述べ方は上のように命題を3つ並べて個別に述べるよりも,簡便で見通しの良い書き方になっていることに気付くと思います.このように1つ条件を用意しておけば,変数に代入するものをいくつか与えることで,実質的に複数の命題を一度に述べることができるようになります.
「すべての~」
もう一つ同じような例を見てみましょう.次の条件p(x)を考えてみましょう:
「x^2\ge 0」
そして,この変数xに代入する値として,-4,5,2.3というものを用意してみましょう.もちろんこれらの数をp(x)の変数xに代入すると,真の命題になります.そして,次のような真の「命題」を考えることができます:
「x=-4,5,2.3のときp(x)は成り立つ.」
この文は命題です.その理由は次のような状況を考えていることにあります.前半の「x=-4,5,2.3のとき」という制約によって,p(x)の変数xにはこれらの数のいずれかが代入されていることを考えます.そうするとp(-4),p(5),p(2.3)という3つの命題が出てくるわけで,これらの命題がすべて真のとき,上の命題は真である,とします.すなわち,上の命題は次の命題とまったく同じことを述べています:
「p(-4)\wedge p(5)\wedge p(2.3)」
このようにして複数の命題を個別に見るのではなくて,まとめて扱うことが可能になります.
ここでよくよく考えてみると,この結果は当たり前で,多くの人がp(x)はどんな実数を取ってきても真になることを知っていると思います.ですが,すべての実数を上のように列挙することは不可能です.ですから,次のような言い方をします:
「すべての実数xに対してp(x)は成り立つ.」
これも命題です.実数をすべて書き出すことはできないので,正しい書き方ではありませんが,気持ちとしては次のような感じです:
\cdots\wedge p(-1)\wedge p(3)\wedge p(5.1)\wedge \cdots
つまりp(x)の変数xに各実数を代入して得られる命題を「かつ(\wedge)」で結んだような命題です.
この「すべての~に対して…が成り立つ」という形の命題は次のようにして記号で表します:
\forall x(p(x))
もしくは,誤解がなければ括弧を省いて
\forall xp(x)
と書いたりもします.この形の命題を全称命題と言い,記号\forallを全称記号と言います.\forallという記号はアルファベットのAを反転させた記号で,「すべての」を表す英単語「all」や「any」の頭文字を取ったものらしいです.この\forallという記号を量化子と呼んだりします.変数xが動く範囲を明確にするときは集合の記法を使います.xが集合Xの元(要素)であることをx\in Xで書いたことを思い出すと,
\forall x\in X(p(x))
と書きます.これは集合Xに属するすべての元(要素)に対してp(x)が成り立つ,ということを意味します.例えば,上の
「すべての実数xに対してp(x)は成り立つ.」
であれば,\boldsymbol{\text{R}}を実数全体の集合を表すことにすると,
\forall x\in \boldsymbol{\text{R}}(p(x))
と書くことができます.
次の条件q(x)を考える:
「x^2-4=0」
この条件に対して,次の命題を考えることができる:
「すべての実数xに対してx^2-4=0が成り立つ.」
この命題は偽の命題である.なぜなら,この命題が真になるためには,どんな実数を持ってきてもx^2-4=0が成り立たないといけないが,x=1を代入すると,左辺は-3であり,等式は成り立たないからである.
「すべての~に対して・・・が成り立つ」という形の命題が偽であることを示すには,例5のように条件を満たさないものを1つでも持ってくればよいのです.
「~が存在する」
\forallと対になるような量化子があります.そのために例5を復習してみましょう.例5では結局次のようなことを示したことになります:
「x^2-4\neq0となるような実数xが存在する.」
まさにこの「存在する」がもう一つの量化子です.
条件に「存在する」をつけた命題がどのような真偽を持つかを説明します.例えば次の条件p(x)を考えます:
「x>2」
そして次のような命題を作ります:
「x>2を満たすような実数xが存在する.」
xとしていろいろな実数を取ってみましょう.すると,例えばx=3は上の条件p(x)に代入してみると次のような命題になります:
「3>2」
これは真の命題です.よって条件x>2を真にするような実数xが確かに存在するので,
「x>2を満たすような実数xが存在する.」
は真の命題です.
このように「…を満たす~が存在する」という形の命題は1つでもその条件を満たすようなものを見つけてくれば真となります.イメージとしては変数xにいろいろ代入して得られる命題たちを「または」でつないだような感じです:
\cdots \vee p(-3)\vee p(0.9)\vee p(8)\vee \cdots
これは\forall x (p(x))という命題が,たくさんの命題を「かつ(\wedge)」で結んだようなものである,というイメージに対応します.
p(x)を条件として「p(x)を満たすxが存在する」という命題も次のように記号を使って表すことができます:
\exist x(p(x))
誤解がないときは括弧を省いて
\exist xp(x)
とも書きます.この形の命題を存在命題と言い,記号\existを存在記号と言います.\existは「存在する」という意味の英単語「Exist」の最初のアルファベットEを反転させた記号です.変数xが動く範囲を明確にする場合は集合の記法を用いて
\exist x\in X(p(x))
というように書くのも「\forall」のときと同じです.
次の条件を考える:
「x^2=-1」
このとき次の命題
「x^2=-1を満たすような実数xが存在する.」
は偽の命題である.なぜなら,どんな実数xを持ってきてもx^2\ge0なので,x^2=-1とはなりえないからである.
例6において,変数xが動く範囲を複素数全体に変更してみると,例えばx=i(iは虚数単位)とすればx^2=-1は成り立つので,命題
「x^2=-1を満たすような複素数xが存在する.」
は真の命題となります.このように変数の動く範囲により,真偽が異なることがあるので注意が必要です.
表現の注意点
最後に表現における注意点をいくつかしておきます.
「すべての~」の言い換え
「すべての実数xに対してx^2-4=0が成り立つ.」
この命題は次のように言い換えることができます:
「任意の実数xに対してx^2-4=0が成り立つ.」
「どんな実数xに対してx^2-4=0が成り立つ.」
「各実数xに対してx^2-4=0が成り立つ.」
ここら辺の言い方は数学書などでよく出てきますが,すべて同じ意味です.
「~が存在する」の言い方
「~が存在する」の言い換えは,あまりぱっと思いつきません.それよりも次のような述べ方に慣れておく必要があります:
「ある実数xが存在して,x>2を満たす.」
この命題は次の命題とまったく同じ意味です:
「x>2を満たすような実数xが存在する.」
上の文章のほうは日本語として不自然な感じがしますが,数学ではよく出てくる表現になります.なぜこのような不自然な言い方をするのかというと,記号を使った書き方
\exist x(p(x))
と順番を対応させるためです.つまり,この\exist x(p(x))では,まず「xが存在しますよ」ということを述べてから,その後ろにそのxが満たす条件が書いてあります.日本語で,この順番に無理やり並び替えたのが上の文章です.この言い方は,複雑な命題を読むとき,または書くときに重要になってきます.
数学における「適当」という言葉
「適当」という言葉は日常でもよく使います.そして,数学書を読んでいてもよく出てきます.すこし注意しないといけないのは,数学における「適当」という言葉は「なんでもいい」という意味ではなくて,「適切な」とか「ちょうどいい」という意味で使われます(こっちのほうが「適当」の元の意味な気もしますが.).もちろん,授業などで教授などが「適当」という言葉を「なんでもいい」と似たようなニュアンスで使うことはありますが,数学書のようなフォーマルな文章では「適切な」という意味で使われます.「適当」という言葉は「~が存在する」という形の命題で使われることがあります:
「適当な実数xが存在して,x>2を満たす.」
これからも「x>2を満たす」を満たすような「ちょうどいい」xがある,という意味の「適当」であることが分かると思います.
別の文字を使うとどうなる?
この記事では変数としては大体xという文字を使ってきましたが,最初にも述べたように,ほかの文字を使ってもいいです.例えば
「すべての実数aに対してa^2-4=0が成り立つ.」
と述べても問題ありません.1つ注意があるとしたら,この命題は次の命題とまったく同じことを言っています:
「すべての実数xに対してx^2-4=0が成り立つ.」
2つの命題を見比べてみると,文字が異なるだけで,他はすべて同じです.なぜまったく同じ命題なのかというと,それは文字の役割を考えれば分かります.xやaという文字は具体的な数の代替でした.つまり,想定としてはこの文字には具体的な数が代入されているのです.数を代入してしまえば,まったく同じ命題になるので,これらは同じ命題になります.「存在する」という形の命題も同じです.
「y>2を満たすような実数yが存在する.」
「f>2を満たすような実数fが存在する.」
「x>2を満たすような実数xが存在する.」
はすべて同じ命題になります.
まとめ
条件は変数に数などを代入すると命題となるような文のことを言います.「\forall」や「\exist」などをつけることにより,命題になります.

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